クリストフ・ロダミエル氏インタビュー後編 調香師の視点で考える「空間の香り」とその可能性

クリストフ・ロダミエル氏インタビュー後編 調香師の視点で考える「空間の香り」とその可能性

“香りは空間に対する評価や、置いてあるモノ、起きているコトに対する評価にも影響を及ぼす。だからこそ、空間の香りは肌につける香水と同じように洗練され、高級感のある美しいものであるべき。”
マスター調香師 クリストフ・ロダミエル

「香りの発明家」として知られ、従来の香水の枠にとらわれず、空間の香り、映画や音楽、アートなど、さまざまな分野で革新的な香りを生み出しているクリストフ・ロダミエル氏。空間の香りの重要性やベレアラボのフレグランスづくりについて語っていただいた前編に続き、後編では、クリストフ氏が調香師としてどのように香りと向き合い、香りを生み出し続けているのかについて、お話を伺います。

【インタビュー:前編「調香師として思う、ベレアラボの香りの魅力とは?」




―ベレアラボのフレグランスをはじめ、香りを作るときに心がけていることは何ですか?

よい意味で人を驚かせること。また、オンリーワンの香りを提供することです。ベレアラボの香りは日本の生活や住空間に合わせてデザインしていますが、なかには特別な香りの組み合わせによって驚きや新鮮な印象を与えるものもあります。



例えば、『SWINGING PEAR(スウィンギングペアー)』は洗練された洋ナシの香りですが、実はキュウリと洋ナシを組み合わせたとてもユニークな香りです。キュウリと言うと驚く方もいるかもしれませんが、実はみずみずしい香りをつくるのにはキュウリは欠かせない原料なんです。

『RELIEVING GREEN(リリーヴィング グリーン)』は、世界のどこにもない香り。サッカーやeスポーツの選手たちにも愛用していただいていて、ターメリック(うこん)の葉を使った爽やかなグリーンノートが自然のなかにいるような気分にさせてくれます。

 

―原料のチョイスや組み合わせで、驚きやオリジナリティが生まれる。クリストフさんならではの独自の視点がありそうですね?

私は日本が大好きで、何年も前から日本に関する知識を深めていますが、純粋な日本人とはやはり物事の捉え方が違います。

香道と日本画の文化にインスパイアされた『INSPIRING KODO(インスパイアリング コードー)』は、とてもユニークなフレグランスで伝統的な日本の要素を残し、さらに現代や海外の方にも受け入れられるような香りを目指しているのが特徴です。

ほかに、『SINGING SHINCHA(シィンギング シンチャ)』も私の視点から生まれたものですよ。ベレアラボのコレクションにお茶の香りを取り入れようという話になったとき、日本のメンバーには「新茶」の香りは思い浮かばなかったんです。お茶の文化は日本人にとってとても身近であり、かつとても特殊なものなので、それを空間の香りに取り入れることは思いつかなかったのでしょう。

私が初めて日本に来たのは1990年、東芝の川崎事業所でインターンとして働く化学専攻の学生としてでした。ひと夏を日本で過ごし、日本が好きになって、それから定期的に訪れるようになりました。

私は日本のモノで日本の人たちを驚かせるのが好きなのです(笑)。


―日本を客観的に見れるからこそ生まれる香りなんですね。さて、これまでさまざまな「空間」の香りを作られてきましたが、空間の香りをつくるときに心がけていることは何でしょうか?

空間内でどのように過ごしてもらいたいか、どのように感じてもらいたいかを考えることを大事にしています。

例えば、空間に入ったときにハッピーな気分になるのか、ミステリアスな気分になるのか、ワクワクするのか、リラックスするのか? など。

なぜかというと、脳にとって鼻は目と同じくらい重要だから。もしあなたがある空間にいたとして、そこで聴いた音楽を覚えているかというと、おそらくそうではないでしょう。どんな音楽が流れていたかは覚えているかもしれませんが、具体的な曲までしっかり覚えていることはまずないですよね。

一方、そこで見たものや匂いは覚えているはずです。鼻と脳のつながりは、耳と脳のつながりよりも重要なのです。記憶に残るという点でも、香りが私たちの感情や意思決定に影響を与えるという点でも、より直接的で効率的です。


香りは音楽以上に、空間に対する評価や、置いてあるモノ、起きているコトに対する評価にも影響を及ぼします。

 

―香りが空間で起きているコトやモノに影響を与え、記憶に残る。だから、空間の中で何を感じ、どう過ごして欲しいのかを考えて調香するんですね。

香りが感情に訴えるということは、単に「楽しい」「悲しい」「懐かしい」と感じるだけでなく、空間全体の「質」を体感しているということです。

良い香りの空間にいると、そこにあるモノ…例えば木材が、上質で高価なものだと感じられるでしょう。

同じ木でも、香りのない空間や不適切な香りのする空間では、「この木はあまり質が良くない、もしかしたら安いモノかもしれない」「本物の木ではなく、人工の木かもしれない」と感じるかもしれません。

人が過ごす空間に香りがあることは、とても大切なことなのです。

 


―確かに、香りのある空間に入ると上質さを感じます。人は嗅覚を通して空間やそこにあるモノの質までも見極めてもいるのですね。

 空間の香りは他にはどのようなことができるのでしょうか?

そうですね、香りは一般的に人を心地よくさせるものとして知られています。一方で、遊び心やエキビションとして、人を怖がらせたり、不快な思いをさせたりするために使うこともありますよ。

一例を挙げると、中世、戦争の展示向けに作った香りなどですね。戦争の時代、そこにあった匂いを嗅ぐことで、まるで戦場にいるような感覚になり、恐怖感が生まれてくる。そういった香りでアーティストとコラボレーションをしたこともあります。これはやや極端な例ですね。(笑)



―特殊なシーンですがどんな香りなのか体験したくなりますね。恐怖や不快な気持ちなど、ネガティブな感情を引き出すというのは、アートとしての香りの面白い側面ですね。

 では、多くの人が共に過ごす空間の場合、クリストフさんが考える、空間の良い香りとはどのようなものですか?

過去に、銀行から依頼を受けて、銀行に来た人が心地よく感じ、銀行への信頼感が増すような香りを作ったことがあります。銀行はあまり心地のよい場所ではありませんよね。何か間違っているのではないか、問題があるのではないかと心配になる人もいるでしょう。

空間のよい香りというのは人々がもてなされていると感じたり、心地よく感じたり、安心したりできる香りだと思います。香りは、人をより礼儀正しく、より愛想よくし、人間関係を円滑にすることが知られています。


―調香師にとって一番大切なことは何だと思いますか?

香りの成分に関する知識と、それらが組成物のなかでどのように作用するかを理解することが最も重要ですね。また、その成分が文化や地域を超えて人々に与える感情的な影響について知っておくことも非常に重要です。

しかし、良い調香師になるためには、必ずしも化学の知識が必要なわけではありません。知っていることが前提条件ではないのです。物理学や振動理論を知らなくても作曲ができるのと同じ。知っていれば、ある種の扉を開いたり、ある種の創造に影響を与えたりすることはできますが、それがすべてではありません。

植物学の知識がなくても、偉大なシェフになることはできます。でも、植物がどんな味なのか、調理したときにどんな風に相性が良いのかは知っておく必要がありますね。


―なるほど。調香師には、化学的な思考と感覚的な独創性も必要なのですね。新しい香りを生み出すために日頃から実践していることや心構えはありますか?

それは音楽や振付と同じです。まず知っている曲で練習し、次に自分の曲を先生や先輩と練習し、さらに訓練を重ね、同時にとても謙虚でなければならない。

私はいつも先輩調香師から、「調香師は自分の作品について、肯定的にも否定的にも最高の批評家であるべきだ」と教えられていました。これは、音楽や絵画、ダンスでも同じことです。

私も含むベレアラボはプロの「香りのデザイナー」です。ですから、生活者にむけた香りにも、芸術としての香りにも、どちらにも同じように敬意を払っています。

 

―ところでクリストフさんは、普段、アロマディフューザーを使っていらっしゃいますか?

私はベレアラボのナチュラル アロマディフューザーが好きで、私が知る限りでは世界で2本の指に入るほどです。これはゲストにとっても、私にとっても、とても重要なことです。


自宅ではいつも自分が調香した香りを試しているので、常に家でアロマディフューザーを使っているとは言えませんね。私の自宅は「マッドサイエンティスト」の場所であり、「匂いのスープ」なんです。キャンドルもたくさんありますよ。キャンドルは火を使うので詩的でロマンチックですが、危険だったり1日で燃え尽きてしまったりします。そして調香に関しては、キャンドルはいろいろな制約があるんです。話を戻しますが、ベレアラボのナチュラル アロマディフューザーは、普段からよく使っています。


―ベレアラボには13種類の香りがありますが、具体的に、思い入れのある香りはありますか?

『INSPIRING KODO(インスパイアリング コードー)』、『MELTING AMBER(メルティング アンバー)』が好きです。もちろん気分次第なところはあります。私は多くの人のために香りを作るのであって、自分のために作るわけではありませんから。でも、基本的にはダークウッドや樹脂を使うのが好きなんです。また、ジンジャーやベルガモットの、ドレスアップしたかのような美しく洗練されたフレッシュな香りには、よく知っていても毎回驚かされます。貴重で繊細なフレッシュさには、何か魅力があるのです。

 


―最後に、クリストフさんが考える香りの可能性についてお聞かせください。
香りのある生活によって、私たちにどのような良い変化がもたらされるのでしょうか?

まず、香りがあると人は感情を解放しやすくなります。なぜなら、香りは言葉や音楽では開けられない頭の中の引き出しを開いてくれるからです。

私は、香りのある空間の心地よさを、もっともっと多くの方に知っていただきたい。そして、家で過ごす時間を大切にする人が増えることを願っています。

技術的な面では、香りも照明などと調和するようになれば良いと思います。将来的には、照明や空調と一緒に、ホームコントロールシステムの一部として、手元の機器で香りをコントロールするような仕組みができるのではないかと思います。そうなれば、朝はこの香り、夜はこの香りというように、香りを変えたいときにわざわざボトルを交換する必要がなくなりますよね。今後、香りのある世界はさらに楽しくなっていくと思っていますし、日本がそれをやってくれると期待しています。

 


―香りについての楽しいお話をありがとうございました。


【インタビュー:前編「調香師として思う、ベレアラボの香りの魅力とは?」



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